アプリコットな日々

気長にブログ始めてます。

死神

ある日の帰り道、道端に黒い人影を見た。時刻は丁度昼の3時頃。そこは住宅が立ち並ぶ片側1車線の道路。私は向かって右側の歩道を歩いていた。若い頃は真っ直ぐ顔を上げて潑剌と歩いていたものだったが、いつの間にやら俯き加減に歩くようになっている。時折それに気付き、ハッとして前方を見るのだが、この時もそんな具合だった。何か人の気配がしたわけではなく、パッと顔を上げて前を見ると、3メートル位先のところに真っ黒な服を着て、グレーの長い縮れた口髭と顎髭を生やした男の人が、角の縁石に座っているではないか。眉太くギロリとした目が合った。それはあたかもそこだけモノクロの世界で、灰を被った様に埃っぽく、ハリウッド映画のエキストラがそのまま現れた感じであった。とにかく異様さを漂わせている。しかし丁度そのすぐ奥のところから、新築の家の工事をしているのか、大工さんのトントンと木を打つ音がしており、だからその時咄嗟に頭を過ぎったのは、大工の棟梁か何かの人なのだろうということだった。それにしても、その横を通り過ぎるなんてことはとてもできず、真っ先に判断したことは、避けること。反対側の歩道には、私の後ろから7、8メートルくらいのところに、若い男の子が2人、じゃれ合いながら歩いており、私がそちらの方の歩道へ横切った時、その子達は、何事かといったような注意を私に向けた。その黒い座っている男の人ではなく、私に注意を向けている?、、、ということは、彼らにはその黒い人物は見えてない、ということだったのか。

不吉であることは言うまでもない。しかし私は、それを避けて反対側の道を選んだ。後は振り返ることもせず、黙々と前へ進んだ。気持ちは晴々としていた。これでいいのだと思った。

それから何年か経つ。その道もいつもの様に通っている。何もない。もう見ることはあるまい。生活も至って平穏。「お主の道はこちらではない」ということだったのかも知れない。